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so there is no time like the present,
反骨
◆バルセロナ, Barcelona, Barkeno
sagradafamilia ‘反骨’の二文字ほど、カタルーニャ地方の歴史を一語で表現するのにふさわしい言葉はないだろう。外来の支配者に対する叛乱が頻発したからというばかりではなく、戦時において反逆の英雄を幾人か輩出したからというばかりでもない。そこに生きる人々が今なおその精神を色濃く息づかせているという点で、現に反骨の気風に満ち充ちた土地なのだ。
 バルセロナはその歴史の始めから、カタルーニャの中心都市であり続けた。街の起源はカルタゴの英雄ハンニバルの父、ハミルカル・バルカにさかのぼる。名将として鳴らしたバルカは自らの地歩を固めるべくイベリア半島東岸に幾つかの拠点を築いたが、その一つとしてこの街の歩みは始まった。フェニキア語の古名バルケーノ(Barkeno)に由来する名をもつこの街は、ゆえにバルカの家名そのものを纏い続けているとも言える。記事の流れをこのままに、フランク王国との相克やバルセロナ伯の巧みな外交戦略、アラゴン王国基幹港としての繁栄やスペイン継承戦争後の相対的な没落、そして内戦をへて現代の復興へと至る歴史を概観するのもいいが、今回は趣向を変えていきなり21世紀現在へ突入する。

 さて「バルセロナ」の語を日常耳にする機会としては、世界的に著名なFCバルセロナ関連の報道をまず思い浮かべるひとも多いだろう。ロナウジーニョを始めとするスター選手たちはもとより、FCバルセロナの本拠地スタジアム‘カンプ・ノウ(Camp Nou)’の名ですらも、スポーツをあまり観ない人々にも広く知れ渡っている。
 このスタジアム、“カンプ・ノウの奇跡”のような形でサッカー史に残る試合を数知れず演出してきたのは言うまでもないこととして、その枠を超え出て世界史におけるカタルーニャの展開を巡っても鮮烈な一幕を演じたことがある。この地方ではスペイン語とは異なるカタルーニャ語が話されていることはよく知られているところだが、前世紀の半ば30年に及んだ将軍フランコによる軍事独裁政権下にあって、公的な場でのカタルーニャ語の使用は激しい弾圧の対象となっていた。ところが、である。カタルーニャ地方においてそれが許された唯一の場所がある。そう、カンプ・ノウの中なのだ。1957年に完成しヨーロッパ最大の収容人数を誇るこのスタジアムは、FIFAの規定により現在はその数を9万人台に抑えているが、かつてワールドカップ開催時には12万人を収容する能力を公表してもいた。それだけの集団が精神を昇ぶらせ得る場所で、下手に抑圧など加えられないというのが恐らく政権側の本音だったろう。つまりカンプ・ノウがカタルーニャ叛乱の震源地になりかねないという認識があったことになる。
 またフランコはレアル・マドリードを支援して、アスレティック・ビルバオやFCバルセロナといった当時の強力チームから有力選手を奪うなどの強権を行使した逸話をもつ。そうした背景を踏まえてみると、今日でも伝統の一戦として名高いレアル・マドリードvsFCバルセロナの試合“エル・クラシコ(El Clásico)”を包む尋常でない空気の出処も推測できようというものだ。

Toros-SANAA

 話変わって上画像の左はバルセロナ市内の闘牛場。かつてスペイン国内の各都市において闘牛場は観光資源の柱であったが、旅行者の趣向の変化もあって今では下火となり、ことに闘牛は元来カタルーニャの文化ではないという心情的忌避も働いて、バルセロナでは同州議会によりすでに廃止が決定されている。こんなところにもプチ反骨の萌芽あり。サッカーだってべつにカタルーニャ発祥の文化じゃないんだけど、なんていうツッコミはたぶんしないほうがいい。カタルーニャ2千年の反骨心があなたに対して発動する恐れがある。
 上画像の右は昨年催されたカンプ・ノウの改築コンペにおける決定案。設計者は30セント・メリー・アクス[ロンドン:→link]や香港上海銀行本店ビル[香港:→link]などで知られるノーマン・フォスター卿。闘牛場もサッカー場も、必要以上に光っている。目下進行中の情報革命により現代社会は多くの面で生理の感触定かならぬヴァーチャルの世界へと重心を移しつつあるが、見世物の世界でも闘牛における命の奪り合いというリアルから、代理戦争とも表現される象徴上の戦いへの移行が起きたとすることもできそうだ。

FCBarca ともあれこんな記事になったのは、昨夜ゲーム内の知り合いにつられて夜更けまでFCバルセロナvsマンチェスター・ユナイテッドの試合を観戦してしまったからで、それにしてもUEFAのチャンピオンズリーグってちょっと派手すぎやしないかと思う。なにこの世界選抜vsなんという世界選抜、みたいな試合ばかりじゃないか。豪華絢爛への道をゆくスタジアムの外観にしても、観客に死者が出たというようなありがちな騒動にしても、もはや単なるスポーツ興行の域ではない。演劇性も祭儀性も政治性までをも飲み込んだ、虚実定かならぬ幻影装置と化している。
 考えてみるとカタルーニャを代表する芸術家として即座に思いつくアントニ・ガウディやジョアン・ミロ、サルバドール・ダリなどはいずれもその作品世界に底知れない謎を感じさせる人物ばかりである。同じスペイン出身でもピカソやガルシア・ロルカのように個人の内面を深く掘り下げた帰結として開示される‘個の感性’による俊敏な表現とは明確に異なる、個人の底を割った先に蠢く集団的な夢幻とでもいうべき異様なムードを彼らはともに湛えている。とすれば紀元前の時代から今日まで連綿と受け継がれてきたカタルーニャ精神の基底では、個を無化させてしまう種の強い感染力が息を潜めているのかもしれない。ちょうどカンプ・ノウがそうであるように。
 
2008.05.01 * 西地中海編 * CM:0 * TB:0 * top↑
  
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