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so there is no time like the present,
2. ドゥカーレ宮の謎 [ヴェネツィアII]
 都市は人工物の代表だが、なかでも中世におけるヴェネツィアは、干潟の適当な部分に杭を打ち込み石材を積むことで街全体の基礎を形成した点が特異である。それゆえこの街は、現代ならばたとえば宇宙ステーションに比してもよいほどの、まさに最先端の事物が集まる究極の人工物としてこの時代に人々の内に存在していたとしても不思議はない。

 したがって、ルネサンス美術が当初フィレンツィエやローマにおいて形やデッサンの技巧に重きをおいて興隆したのに対し、やや遅れて開花したヴェネツィアのルネサンスの美術がむしろ質感や情感の表現へと傾倒していったことには、より強く後方へと引いた弓こそが、最も遠い先へと矢を飛ばすがごとく、ある種の必然性があったのかもしれない。

 
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 初めて入った瞬間はおそらく多くの人がそうあるように、ヴェネツィア元首公邸の室内として登場するこの部屋(写真上)で、わたしもまたその壮麗さに思わず目を見張ったものだった。
 が、しばらく部屋内部を歩き回り、個々の絵画に見とれているうちに、ふと疑問を覚えたので、手近な資料をあさってみたところ、やがて意外にもいくつかのささやかな発見へと至った。そこで今回は、いざ海へと出航する前に、もう一つ、故郷ヴェネツィアについてこの点のみ書き付けておこうとおもう。

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 まず最初に目を引く壇上の背景に位置する大画面(写真上中央)、これは明らかにティントレットによる大作≪天国≫の再現である。ヴェネツィア最大の守護者である聖母マリアが、天国の女王として戴冠を受ける場面が描かれているこの作品は、そのサイズが同時代の油画作品としては他に類例がないほどに巨大なことでもよく知られている。
 そしてこの作品や部屋の構成、基壇の形状などから、そこが現存するドゥカーレ宮殿内部の“大評議の間”の再現を意図したものであることはどのようにも疑いえない。(写真下は現存する実作品)

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 ドゥカーレ宮殿“大評議の間”はヴェネツィア共和制のシンボルとも言える空間であるし、ティントレットはヴェネツィア派ルネサンス美術の中心人物に他ならないから、ゲーム内にこの空間を再現させた光栄の選択を、美術好きの一ゲームファンとしてまずは素直に喜びたいと思う。

 ●

 だがそのつもりで部屋を仔細に見まわしだすと、あれ?、と首をかしげたくなる点が次第にいくつも目についてきた。なかでも圧巻なのは、存在感たっぷりに位置するこの部屋の大天井画(写真下)における、いくつかの不可思議な“取り違え”だ。

venezia201.jpg

 この作品はその構図から、同じくティントレットの代表作の一つ≪ヴェネツィア称揚≫であることがわかる。だが、ここで目を向けるべきは、それが誰の作品なのかを言い当てて悦に入るマニアックな興味の矛先などではなく、その作品がなんと左右反転していることなのだ。実作品の良い写真がなくお見せできないのが残念だが、たしかにこの作品は、左右反転してしまっている。作品下半を斜めに横切る陸地と雲海との境界線は、実際には左下端から右上方へと伸びている。

 そしてさらに言えば、ティントレット≪ヴェネツィア称揚≫は実際には、この部屋には存在していない。この作品があるのは同じドゥカーレ宮殿内の“元老院の間”であって、≪天国≫のある“大評議の間”ではない。これはまことに、摩訶不思議な事態ジャマイカ。

 そこでわたしはさきにも書いたように、「ああ、“取り違え”たんだな」と考えた。というのもこの“元老院の間”、“大評議の間”とほんとうによく似ているのだ。部屋の前方に基壇があり、その左右に奥の部屋への扉がある点も、両側方および天井に絵画作品が居並ぶ構成も素人目には実にそっくりで、異国の美術史になどとりたてて興味も造詣もない(かもしれない一部の)ゲーム制作関連の技術者が、取材班から渡された資料写真と室内配置図のいくつかを取り違え、さらにはティントレットの作品図版を何かの拍子に左右反転させてしまったとしても、それはそれでありうることだと想像したのだ。

 だが、ここでは事態はまだ収束しない。事件は現場で起きている。自分でもなにを言ってるのかわからなくなってきたが、ともかくも現場をもう少し歩いてみることにしよう。

 ●

 ドゥカーレ宮殿の“大評議の間”は、実をいうと一度火災に遭い、そこにあったはずの数々の作品を焼失してしまっている。その多くはいずれもが、ティントレットの師匠筋にあたるティツィアーノやヴェロネーゼ、さらには巨匠ピサネーロやカルパッチョらによる傑作であったと推定されており、ヴェネチア美術史上痛恨の大事件であったわけだが、この火災がなければ現存するティントレットの作品も描かれることはなかったわけで、凡庸な物言いだが<歴史とはいかにもアイロニーに満ちている>。

 (ちなみに1577年に起きたこの火災を手がかりにゲーム内でのヴェネツィアの在りようを考えると、このゲーム中では街北部に邸宅を構えるミケランジェロやセビリアに住むエル・グレコ、他の邸宅内の壁面装飾など美術関連の事物/人物だけをとってもいろいろと面白い連想が浮かんでくる。が、それはまた別の機会に。)

 ともあれそうした理由から、ドゥカーレ宮内部にあっては比較的新しい作品群が並ぶこの部屋には、その部屋自体の使用目的上の性格に加え、次第にヴェネツィアが劣勢に追い込まれていく当時の世相も反映して、我らがヴェネツィア共和国の強勢を誇る内容の絵画作品が多く配置されることになった。その内容は、他国の艦隊を破るヴェネツィア海軍のガレー船団や、サン・マルコ広場での祝勝式典の様子など、いずれも豪壮なものが多く、そのほとんどは現在もこの同じ部屋にあり一般に公開されている。

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 そこでこの作品(写真上)を見てほしい。ガレー船などどこにもない。少しも豪壮なんかじゃない。一見聖書の一場面を描いているようでいて仔細に見ると、何の場面を描いているのか、よくわからない。

 ふつうに見れば、中央の女性に二人の男性が花冠を授け、その上方には白い鳩が描かれるこの構図は、新約聖書の“聖母マリアの戴冠”の場面を描いたものであり、左右の人物は各々がイエス・キリストとゼウス神を表しており、精霊の化身たる上方の白鳩とともに三位一体を意味している。はずである。
 だがそれならば、その周囲に描かれた混沌の様はいったい何を意味しているのだろうか。“聖母戴冠”の場面ならばむしろあってしかるべき下界より見守る使徒たちの静謐も、集う天使たちによる祝福もここにはみられず、代わりに描かれているのはねじりまざり合う肉体らしきもの、戦場の光景を思わせるような苛烈なとっくみ合いらしきものばかりである。
 これはもしかして、意図的なフェイクじゃないか。いろいろな作品から部分部分をコラージュして、意図的に存在しない絵画作品をでっち上げているんじゃないか。と、ひとたび疑い出すと、パーツパーツの明度や彩度が他の部分と異なり全体の調和を著しく乱していることなどから、そうした疑念が確信へとすくすくと、ひしひしと、もりもりと成長していくのを感じてゆく。
 だが結論を急ぐ前に、もう少し他の作品でも検証を試みよう。なによりもまず、ここでは慎重さと大胆さとを併せ持つことが肝要だ。事件は会議室で起きてるんじゃない。なにをいっているのか、わからない。

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 ではこの作品(写真上)はどうだろうか。ぱっと見、ものすごくありそうな絵画に見える。母性的な雰囲気を漂わせる女性の膝元に二人の幼児が戯れ、背に羽の生えた天使が傍らから穏やかに見守るこの図は、その典型的な人物配置から、女性は聖母マリアであり、幼児はそれぞれ幼少時のイエス・キリストと洗礼者ヨハネだとわかる。色調もうまく統一されている。だが、画面右にいる幼児のペアと、左にいる幼児のペアをよく見ると、・・・・・・

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 完全な、コピペ発見。 ( ´_ゝ`)

 まぁなんというか、あれなのだ。要点から言ってしまえば、さきに述べた“取り違え”もここまできて始めて、取り違えなどではなく意図的な操作なのだとここまできて合点がいった。

 法的な問題にわたしは詳らかではないけれど、個々の作品自体に特定の個人・法人へと帰属する著作権はすでに存在しないとしても、画像の使用権に関する法規定は国によりマチマチだろうし、ネットゲームへの画像の転用は明らかに商用目的にあたるから、いろいろと問題を孕み“得る”ことではあるのだろう。とりわけこれらをある特定の団体が所有する建築物の一部として見なすならば、その画像の権利関係は一層複雑怪奇となるに違いなく、むしろ意図的にバッタもんをでっちあげてお茶を濁しておいた方が、より実りある方向へとゲーム制作のリソースを注げるのは確かである。

 そう思いめぐらせて、あらためて壇上の大作≪天国≫の細部に目をやってみる。

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 なにを描いているのか、さっぱりわからない。

 当初はグラフィックに割かれた容量上の問題として無意識のうちに見逃していたこの不明瞭さにも、実は判然としてないことこそが鍵となるような事情があったのかもしれないという、至極ささやかで、独断と偏見に満ちあふれかつ、だれの役にも立つわけがない発見と考察を述べて、唐突に本記事を終えることとする。

 形や細部の正確さより、全体のかもし出す質感や情感こそが、ヴェネツィア派の絵画においては大切だったというおはなしでした。(エ?) ではまた次回にお会いしましょう。


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 いざ、


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 海へ。


 
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2005.10.27 * エーゲ海・アドリア海編 * CM:2 * TB:0 * top↑
1. ヴェネツィア
深い 深い 無音の底へと沈んでゆく
漏れでた気泡は頬をなで かざしたてのひらのあいだを抜けて
かすかにそそぐ光の方角へ ゆれながらしずかに遠ざかってゆく

この圧倒的な暗闇のただなかで 彼方に浮かんでみえるのは
あなたと過したあの時間の 温かみに満ちたその記憶の
ほのかで柔らかな色あいだけで

それだけを ただそのぬくもりだけを守りたかったのだということを
こんなにも遠くまで来てようやく知ったわたしはたぶん
そのことのおかしさに くちびるをひしゃげていたんじゃないか


 
 いつからここにいるのか、おぼえていない。ただこの目でものを見、この耳で音を聞き、この足で歩くことができる、そういう人間としていつからか、わたしはここに生きている。その途上で見聞きしたものごとのいくらかを、これからこの場に書き留めていくことにする。

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 そのようにしてこの指先により記された言葉を通すことでかろうじて、わたしはわたしという何者かの息吹を見いだしうる。ほんとうのところ、そうしたあり方がよいことなのか、わるいことなのか、わからない。ただいまは、そのようにしてあることに、残されたこの時間のいくらかを費やしていたいのだ。ただひたすらに。なんのためではなく、誰のためにでもなく。

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venezia2.jpg

 とはいえこの街の美しさについて、古今を問わず累々と語り継がれてきただろう無量の言葉に、いまなお何かを加えようとは思わない。しかしそれにしても、よく手が込んでいる、と感心せざるをえないものはある。サン・マルコ寺院(写真上左・以下写真はすべてクリックすると拡大します)やドゥッカーレ宮殿(写真上右奥)はもとより、

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ヴェネツィアン・ゴシックのファサード装飾(写真上)や、市街を縦横に走る小運河とそこへと降りる階段のディティールから、運河上のゴンドラや木杭、石畳や壁面の剥落、小橋を渡り、細い路地を抜けて広場に出たときの空間の広がりの感覚に至るまで、

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実に再現性の高い、きめ細やかな仕事が施されている。このゲームでこの街を訪れたのは別キャラをプレーしているさなかであったが、それは紛れもなく、このゲームを始めてほんとうに良かったと思えた瞬間でもあった。

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 ただここまで力を入れながら、あまりにも有名な史跡“嘆きの橋”(本来なら写真上右部に架かっているはずの通路橋‘溜め息橋’とも)がないのが、心持ち残念ではある。一ヴェネツィアンとしては、クメール遺跡や中尊寺金色堂のゲーム内実装と同じくらい、“嘆きの橋”実装を心待ちに待つ次第。

 茶々入れついでにもう一点、ほとんどのプレーヤーは気づくことなく通り過ぎるに違いないほど些細なことだが、サン・マルコ広場に鎮座ましますこの馬車(写真下)は、無数の運河を階段状の小橋でつなぐこの街で、いったいどこから来て、どこへ行くためのものなのか、考えてみれば謎である。

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 ちなみに今回記事中に使用した多くの写真で登場をいただいているアンナ・スコット嬢[ブログはコチラ]は、教授が今後世話になることにした商会の会長でもある。わたしはこの世界では1stキャラを別に持っており、そちらが所属しているリスボンの商会に属すのがいろいろな点で便利かつ合理的で、1stキャラが世話になっている人々の多くにとっても都合の良い選択ではあるのだが、あえてわがままをさせてもらうことにした。ゆえに上記写真は一見お姫様に奉仕しているように見えるのだけれど、左下部のログまで読めばわがままを言っているのは誰かよくわかる。

 どういった商会に属すかということがこのゲームではプレーの様相に大きな影響を与えうるため、別の商会に属すと何が変わるのかに興味があったというのがこの選択の第一の理由だった。このゲームに気長に付き合っていくためには、レベルアップや新世界の開拓といったゲームのシステム自体に依存するよりも、他のプレイヤーとのネットワークをできるだけ拡げておいた方がいいと考えたのが理由の第二。
 そして最初に出会い、いろいろと楽しませてもらっている商会が多国籍で何でもありな性格をもつのに対し、たまたま仲良くなったヴェネツィアンのプレーヤーの幾人かが属すアンナ嬢の建てた商会はヴェネツィア色を鮮明に打ち出していたことが、この商会“アストレア”に属すことにしたきっかけになった。


venezia66.jpg

 最後に選んだ写真(写真上)ではやや沖合に大型ガレーやガレアスが停泊しており、河岸とのあいだをゴンドラが往き来している様が窺える。簡易な荷物であれば往時は実際このようにして、海運が行われていたのかもしれない。また写真中でアンナ姫と教授の立つ石造りの階段は、海面の上昇とヴェネツィア本島自体の地盤沈下のため、2005年の現在では最上部の一段を除いてすでにほぼ海中に没してしまっている。この石段に打ちつけてくる波しぶきの砕ける音に耳を澄ます。いまあるすべてがいずれ損なわれ、失われゆく様を想わせるはかなさがそこにただよう。その響きのはかなさこそが、この水都の抱えもつ哀切を、極限にまで高めてゆく。

 多くの港町にあっては水だけがたえず人を癒やすが、それは水こそが唯一、次第に沈みゆく己の姿を人に予感させえてきたからなのだということを、この街は壊音の響きとともに、おだやかにささやきかけてくる。

 

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2005.10.19 * エーゲ海・アドリア海編 * CM:0 * TB:0 * top↑
       
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